Web3の次に来るものは何か

ーー「トークンの時代」から「体験を売る時代」へ

Web3は終わっていません。
ただ、主語が「チェーン」から「ユーザーの目的」へ移った、というのが実態です。

いま起きているのは、次の3つの合流です。

  1. 会話UIで買う(Agentic Commerce)
  2. 資格・本人性をウォレットで持つ(Digital Credentials)
  3. 国境をまたぐ送金・決済をプログラム可能にする(Stablecoin/新決済レール)

この3つが揃うと、Web3は“見えない基盤”になります。
ユーザーは「Web3を使っている」と意識せず、普通のサービスを使っている感覚になります。

結論(先に要点)

  • Web3の次は「Web3 + AI + ID + 決済」の統合レイヤー。単独のWeb3ではなく、実サービスに溶け込む。
  • 主戦場はデバイスよりサービス。デバイスは補助、価値の中心は継続体験と運用データ。
  • エンタメ化は可能。むしろ有望。
    ただし、海外はUGC経済圏型、日本はIP×リアル連動型で勝ち筋が違う。

1) なぜ「サービス主導」になるのか

まず、ハード単体で世界を取りに行くモデルは難易度が高い。
象徴的なのがHumane AI Pinで、事業停止と資産売却に追い込まれました。ハードは初期体験が悪いと一気に信頼を失います。 (Reuters)

一方で、ブラウザ・OS側はAI機能を急速に実装中です。ChromeはAI機能強化を進め、Firefoxは逆に「AI機能を一括オフ」にできる制御を入れました。つまり競争軸は「専用端末」より、既存環境上でのUX設計に寄っています。 (blog.google)

さらに、スマホ市場は2025年の成長率が大きくは伸びておらず、ハード刷新だけで爆発的成長を作る地合いではありません。差別化はソフト・体験側に移るのが自然です。 (my.idc.com)

2) 次の本命は「標準化済みID」と「会話型決済」

ID領域では、VC 2.0(W3C Recommendation)やOpenID4VP/VCI Finalが揃い、仕様の土台が固まってきました。つまり、相互運用を前提に“作れる”段階に入ったということです。 (W3C)

Web側でもDigital Credentials APIの仕様策定が進み、AndroidはOpenID4VP/VCI対応を打ち出しています。ウォレットUXがブラウザ/OSに近づくほど、利用障壁は下がります。 (W3C)

日本でも「iPhoneのマイナンバーカード」が開始され、行政IDのモバイル実装が現実化。EUでもEUDI Walletを各国が提供する方向で進行中です。IDウォレットは“未来の話”ではなく“実装フェーズ”です。 (デジタル庁 ウェブサービス・アプリケーション)

決済側はさらに速い。ChatGPT内購入(Instant Checkout)とACPが登場し、会話から購入までを短絡化。Stripeは101カ国向けのstablecoin口座を打ち出しています。
つまり「探索→比較→購入」の導線が、会話→購入に変わり始めました。 (OpenAI)

3) デバイスか?サービスか?(根拠つき提案)

私の提案:7:3でサービス優先

  • 7割:サービス・ソフトウェア投資
  • 3割:体験を増幅するデバイス連携

理由は明快です。
デバイスは在庫・物流・故障対応・サポートの固定費が重い。
対してサービスは改善ループが早く、継続課金・運用収益・LTV最適化がしやすい。

ただしデバイスは不要ではない

デバイスは「入口」を作るのに強い。
でも価値の本体は、以下のような継続体験で作るべきです。

  • 身元確認と年齢確認のシームレス化(ID連携)
  • 決済・権利処理の即時化(決済レール連携)
  • AIエージェントでの探索・購入・再来訪導線(会話UI)

4) 具体的に出てくるサービス/商品(実装しやすい順)

以下は「Web3の次」を前提に、今から作れる案です。

A. 消費者向け(B2C)

  1. エージェント購買コンシェルジュ
    会話で商品提案→在庫照会→決済→配送追跡まで完結。
    収益:送客手数料+決済手数料+広告枠。
    根拠:会話内購入の実運用開始。 (OpenAI)
  2. 年齢・会員資格つき“入場パス”アプリ
    チケット、ファンクラブ、物販購入権を1つのウォレットで統合。
    収益:発券/検証手数料、プレミア会員。
  3. 越境クリエイター向け即時分配ウォレット
    収益分配を自動化し、税務証憑まで同時生成。
    収益:SaaS利用料+送金手数料。
    根拠:stablecoin口座のグローバル拡張。 (Stripe)
  4. “鍵不要”オンチェーン会員証
    メール/SMS/ソーシャルログインで参加できるウォレットレス体験。
    収益:導入費+MAU課金。
    根拠:Embedded Walletの実装成熟。 (Coinbase Developer Docs)

B. 事業者向け(B2B)

  1. KYC/KYB連携済みデジタル資格検証API
    採用、金融、教育で「証明書確認コスト」を削減。
    収益:API従量課金。
    根拠:VC/OpenID標準の成熟。 (W3C)
  2. ロイヤルティ・クーポンの相互運用基盤
    企業横断でポイント・会員ランクを持ち運べる。
    収益:接続料+決済手数料。
  3. 不正検知つきトランザクション監査SaaS
    AI詐欺・ウォレット搾取対策を標準装備。
    収益:月額+インシデント対応課金。
    根拠:詐欺の高度化は継続。 (Reuters)
  4. Account Abstraction運用代行
    Paymaster/ガススポンサーを含む“使えるスマートアカウント”を企業導入。
    収益:初期構築+運用課金。
    根拠:ERC-4337/スマートアカウント周辺の実装ドキュメント成熟。 (ERC4337 Docs)

5) エンタメ化はできるか? → できる(ただし設計が命)

海外:UGC経済圏モデルが強い

FortniteやRobloxのように、クリエイターに実際の報酬が流れる設計が拡大しています。
これは「作る人が増える → 体験が増える → 課金が増える」の正の循環。 (Epic Games’ Fortnite)

日本:IP×リアル連動モデルが強い

日本は、配信だけでなくライブ・イベント・物販の重みが大きい。
音楽産業でも物理/配信の両輪と、演奏会等の強さが見えるため、オンライン完結より“体験連動”が刺さる。 (RIAJ)

さらにLINE内Mini Dappのように、既存プラットフォームに寄生する形での普及が現実的です。 (LINE Corporation)

6) 日本と海外の違い(実務向けに一言で)

  • 海外:UGC・ゲーム・越境決済が牽引。先に“市場”が走る。
  • 日本:IP、ファンクラブ、チケット、会場体験が牽引。先に“文脈”が必要。

だから日本では、
「トークン売ります」ではなく「推し活が楽になる」「入場が早い」「限定体験が増える」で設計するのが正解です。

7) 失敗しやすいパターン(辛口)

  1. “ブロックチェーンです”を前面に出す
    ユーザーは技術説明では課金しない。
  2. 投機導線だけ作る
    継続率が落ち、コミュニティの質が壊れる。
  3. 法務・税務・不正対策を後回し
    事業が伸びるほど事故コストが跳ねる。詐欺環境は改善待ちではなく前提で設計すべき。 (Reuters)

8) 12か月の現実的ロードマップ

  • 0〜3か月:単一ユースケースでMVP(例:会員証+チケット)
  • 3〜6か月:ID検証・決済・分析基盤を統合
  • 6〜12か月:越境決済とクリエイター分配を追加、B2B API化

KPIはこの3つだけで十分です。

  • ①オンボード完了率
  • ②30日継続率
  • ③有料転換率(または流通総額)

まとめ

Web3の次は、新しい“3文字略語”ではありません。
「AIで意図を受け取り、IDで信頼を担保し、決済で完了する」サービス設計そのものです。

勝つのは、

  • デバイスを作る会社ではなく、
  • 日常の摩擦を消して、継続体験を運用できる会社です。

技術は裏側へ。体験は前面へ。
ここを割り切れたチームから、次の標準になります。